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2011年11月29日 (火)

一期一会の出会い

2011年11月8日(火)マスタークラス
2011年11月9日(水)訪問コンサート
黒潮町立上川口小学校 他2校

<訪問した演奏家>
沢井一恵(箏)、さわい箏アンサンブル

今回のツアー日記担当は杉原楽器の篠原正人さん。
アンサンブルのメンバーと同様、愛媛県松山市から来てくださり、津野川小、上川口小での活動にご協力いただきました。

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11月8日、この時期だというのに、気温26度と汗ばむような四万十市、津野川小学校を後にし、一路黒潮町立上川口小学校に向かった。
一恵先生と、松山より応援に駆け付けた琴泉会合奏団(さわい箏アンサンブル)は、市の教育委員会に用意していただいたマイクロバス、私といえばすべてのお箏や、道具一式を愛車に満載させ、そのあとを追った。
70キロは走っただろうか、眼前に広がる太平洋をいただく場所に、その学校はあった。
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この日の予定は16時から開催される『マスタークラス』である。
遅い昼食をとり、さっそく準備に入る。
『マスタークラス』とは、近隣の学校の先生を対象にした講座のことであり、上川口小学校では、9名の参加者があった。
そのうち3名はお箏を習っていたという経験者、この割合はかなり珍しいほうで、私自身も5校目の経験であったが、大半は初心者だったように思う。
まず、一恵先生の「六段」箏独奏で始まり、続いて合奏団による「鳥のように」、そして一恵先生+合奏団による「焔(ほむら)」で模範演奏が終了。
受講生も、その演奏の迫力に、お箏という楽器のイメージをかなり変えさせられたのではないだろうか。
その後、受講生全員による「さくらさくら」の体験演奏に入るわけだが、この『マスタークラス』では、右手に三つのお爪、つまり正式な装備で臨んでもらった。
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一恵先生、合奏団の指導の下、お爪の当て方や弾き方、13本の絃の音程の仕組みなどを勉強したのち、いよいよ合奏に入る。
ひとまずユニゾンでメロディーを合わせ、今度は一恵先生の合いの手が入り、さらには経験者のみなさんのアドリブなども加えながら、瞬く間に「曲」として仕上がっていく。
経験者はもとより、さすがに教授者、そのあたりのカンは抜群だった。
みんなで息を合わせれば、立派に合奏できる・・・受講生のみなさんの満足げな表情から容易に推察できた。
やはり箏曲界では知らぬ者なし、一恵先生のわかりやすい指導とその人柄で、笑顔の絶えない和やかな講習は、ついつい時間オーバーとなってその日を終えた。
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さて明けて11月9日、今度は上川口小学校児童と近隣の小学校児童、合わせて約70名を対象にした、『訪問コンサート&楽器体験』である。
実は昨日、『マスタークラス』の前に、運動場で遊ぶ児童たちに声をかけられていた。
「こんにちは~!なにやってるん?」
「明日ね、君たちの前でお箏を弾くんだよ、君たちも弾くんだよ」
と私が答えると、
「うん、楽しみにしとる!」
そう答えると、元気よく運動場に戻っていった。
子どもは・・・みんなそうなのだが、特にここ上川口小学校の子どもたちは、みんな挨拶もきちんとできて、人見知りをしない。
いっぱい荷物を積んできた私の車を食い入るように覗き込むその瞳が印象的だった。

いよいよ本番、70人の児童たちが体育館に入ってきた。
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児童代表からご挨拶を受ける。
こういう機会がなければ、おそらく一生出会えないだろうな・・・しっかりとハキハキ話してくれるその子を見ていて、「縁(えにし)」という言葉が何度も頭をよぎった。

コンサートは昨日の『マスタークラス』と同じメニュー。
まずは「六段の調」
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「鳥のように」
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そして「焔(ほむら)」
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最初、思いっきり静々と「六段の調」を演奏し始めた一恵先生、児童たちもそのあまりにも小さい音量に一斉に耳を傾けた。
だんだんと音が大きくなり、かつテンポが増してくると、みんな前のめりになって聴いている。
古典の中の古典、その曲を児童に聴かせることに、最初は私自身不安を感じたものだが、いやいやそんな心配は稀有であった。
みんな必死に耳をそばだて、クライマックスのころには完全に引き込まれていた。
本物を子どもたちに・・・言葉でいうのは簡単だが、これはとりもなおさず一恵先生の力量と手法でなければ困難だと思われる。
その後の合奏2曲にも興味津々、「鳥のように」では、その美しいメロディーと、エンディング前の右手でかき鳴らす素早いパッセージに驚き、「焔」における17絃のバルトークに目を丸くしながら見入っていた。

『お箏ってすごいんだな~・・・』と子どもたちが感じたとき、さあいよいよ体験だ。
一恵先生、アンサンブルの楽器に、私が持参した10面のお箏を特殊な調弦にし、下からグリッサンドすると『かえるのうた』が自動的に演奏されるようにした。
なにしろ70名全員に体験させるのだ、お爪は右手の人差し指か中指に一つだけ、それでも合奏ができるように、一恵先生が考案された。
なるほど、これはいい方法だ、初めて触ったお箏を撫でるだけで音楽になるのだ。
限られた時間の中、さっそく合奏が始まった。
楽器の数から一度に17人ずつお箏の前に座ってもらい、そこで各メンバーが指導にあたる。楽器屋の私も例外ではない、2~3人の子どもたちを受け持った。
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恐る恐る触ると、でもちゃんと『かえるのうた』になることで子どもたちは自信を持ったようだ。
何度かのリハーサルを終え、いよいよ1度きりの本番だ。弾いていない子どもたちは、歌で応援する。
「あなたたちはスターです、初舞台頑張って!」という一恵先生のエールとともに始まった。
・・・とても初めてとは思えない「ショー」だった。
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見ているだけで、なんとなく理解もできるのだろう、その後のグループに進むにつれ飲み込みもよく、指導する側も楽になった。また、応援の歌もどんどん大きくなり、一恵先生はマイクを持って児童たちの中を飛び回った。
そして、ついに先生方の出番だ。
やはり少々照れがあるのか、はにかみながらお箏の前に座る先生方だが、子どもたちは大喜びだ。
さすがに先生、爪を飛ばしながらも大きなしっかりとした音で見事に演奏した。
中でも・・・上川口小学校の植田校長先生は、そのパフォーマンスで大いに盛り上げていただいた。
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児童たちがのびのびと、人見知りせずスクスク育つのもわかる気がした。
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全員の合奏を終えるころには、体育館の中が一つになっていた。
その後、質問タイムに続き、お礼の挨拶もいただいて、最後に全員集合の記念撮影でフィニッシュ。
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みんないい笑顔だ、大げさではなく、日本の明日に希望を感じた瞬間だった。
後ろ髪を引かれる思いで撤収し、いざ車に乗り込んでふと校舎に目をやると、なんと子どもたちが手を振ってくれていた。
『ああ、よかったな・・・』
松山まで200キロ近い道のりだったが、終始幸せな気分に包まれた・・・そんな今回のイベントだった。

文・写真 篠原正人(杉原楽器)

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